インド・卸売物価指数とは、主に製造業と建設業において、卸売市場で取引される財の物価変動率を測定し、インド政府によって月次で公表される指標です。
一般的に、卸売物価指数(WPI)は消費者物価指数(CPI)の先行指標となりますが、インドの場合、卸売物価指数よりも消費者物価指数の方が早く公表される上、両者に相関性があまり見られないため、先行指標としての役割はほとんどありません。
また、インド中央銀行は2013年12月以前まで、金融政策において「卸売物価指数」を重視しておりましたが、12月以降は、「消費者物価指数」をより重要視する方針に転換しました。 (参考: インド中銀が金融政策見直し、消費者物価の安定に軸足移す可能性 – REUTERS)
2011年に消費者物価指数が大幅に改善され、その信頼性が向上したことや、当時の中銀総裁が卸売物価よりも消費者物価に言及することが多くなったことが背景にあります。
目次
1. 卸売物価(WPI)と消費者物価(CPI)の違いは?
卸売物価指数と消費者物価指数では、どちらも物価の変動率を測定しているという点では同じです。しかし、両者の最も大きな違いはその測定タイミングにあります。
それぞれの指標の名称を見ていただければイメージがつきやすいかと思いますが、「卸売物価指数」では名称の通り、卸売段階にある財の物価、すなわち、企業間で取引される財を調査対象としております。
一方で、「消費者物価指数」では、私達(消費者)が購入できる財やサービスの物価を測定しています。
また、卸売物価指数や消費者物価指数と似たような指標として、生産者物価指数(PPI)があります。生産者物価指数についてや、生産者物価指数と消費者物価指数の違いについて気になる方は、以下記事をご参考ください。
2. 算出方法はCPI(消費者物価指数)と同じ!?
卸売物価指数も消費者物価指数も、固定バスケット方式を利用しており、バスケット内の財やサービスの物価変動率を測定しております。
*固定バスケット方式については、以下の項番3で説明しております。
このように、卸売物価指数も消費者物価指数も固定バスケット方式を採用しており、バスケット内の財やサービスの物価変動率を測定しているため、両者とも算出方法はほとんど同じです。
しかし、後ほど説明しますが、バスケット内の項目が大きく異なるため、両者の結果に乖離が見られることも珍しくはないため、指標を読み解く際には注意が必要です。
3. バスケットの中身を理解してWPIの特性を知る!
インド・卸売物価指数(WPI)のバスケットに含まれる財は、①主要項目(22.6%)、②燃料&電力(13.2%)、③工業製品(64.2%)の3つのジャンルに分類され、697項目が調査対象となっています。(参考: Index Numbers of Wholesale Price in India for the month of June, 2020 – インド経済顧問局)
*①の主要項目については食料品など、②と③に該当しない調査対象項目が含まれる。
インドWPI | ウェイト |
◻️全項目 | 100% |
①主要項目 | 22.6% |
②燃料&電力 | 13.2% |
③工業製品 | 64.2% |
以上の通り、卸売物価指数(WPI)では、③工業製品の寄与度が最も高くなっております。
また、以下記事で説明した通り、インド・消費者物価指数(CPI)では、食料品がバスケットの大部分を占めておりましたが、卸売物価指数では、食料品が指標全体に占める割合は、たったの15.2%にしかすぎません。
このように、インドの卸売物価指数(WPI)には、工業製品の影響を受けやすいといった特徴があります。また、CPI同様、固定バスケット方式を採用しておりますが、バスケットの中身が大きく異なっているため、どの財やサービスの影響を受けやすいのか違ってくるのです。
4. インド・卸売物価指数の推移
以下図は、2018年7月以降のインド・卸売物価指数(WPI)の推移です。

ご覧の通り、インドの卸売物価は2018年以降から低下基調にあり、感染症拡大前の2019年9月、10月でも、0.33%、0.16%と非常に低水準で推移していることが見て取れます。
尚、上図には反映されてませんが、2020年4月は、工業製品関連のデータを取得できず結果は公表されておりません。また、5月は-3.21%、6月は-1.81%を記録。燃料価格や食料品価格の大幅下落を受け、マイナス圏に突入しました。
5. まとめ
インド・卸売物価指数 | |
公表機関 | インド政府 |
公表開始年 | 1947年 |
公表タイミング | 毎月中旬(15日頃) |
指標概要 | 企業間で取引される財の 物価変動率を測定し、 公表される指標。 バスケットの60%以上を 工業製品が占める。 |
算出方法 | 固定バスケット方式 |
特徴など | CPIの先行指標としての 役割はほとんどない。 かつては、金融政策を決定 する際に、CPIより重要視 されていた。 |
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