VIX指数は、通称「恐怖指数」とも呼ばれ、投資家の先行き不安を反映する指標とされています。
恐らく、経済新聞やニュースをよく見る方であれば、一度は耳にしたことがある単語かと思いますが、その詳細まで把握している方は少ないのではないでしょうか?
この記事では、VIX指数について深く知りたい方向けに、VIX指数の計算方法やリアルタイムで確認する方法、過去の歴史的な高値&安値などについて説明していきます。
目次
・VIX指数とは?
VIX指数とは簡単に言うと、「S&P500が30日後にどれだけ変動するか予測する指標」です。
もう少し詳しく説明すると、米国最大のオプション取引所であるシカゴオプション取引所(CBCE)が算出しており、 S&P500の30日後のインプライドボラティリティを示す指標です。

VIX指数は、S&P500指数を対象とする満期30日のインプライドボラティリティから算出され、数値が大きければ大きいほど、30日後の変動率が大きくなると市場が見込んでいることを意味します。
VIX指数の値が大きくなるということは、それだけ将来の見通しが不確実であるということを示唆しているため、VIX指数のこのような性質を称して「恐怖指数」と呼ばれています。
日本でも、似たような指標として、日本経済新聞社が「日経平均VI」を公表しています。
・S&P500指数の30日後のボラティリティを
予測する指数
・投資家の不安心理を反映するため
「恐怖指数」とも言われる
・VIX指数と同類の指数として、日経VIや
VSTOXX指数がある
・コール&プットオプションの気配値の中値
を基に算出される
・2008年の世界金融危機の89.53が最高値、
2017年に最低値である8.56を記録
・VIX指数を理解するために知っておくべきWords
ここでは、VIX指数やその計算式の概要を把握する上で知っておくべき単語の紹介をしています。
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オプション取引
オプション取引とは、将来の一定の日、または期日までにある金融商品を特定の価格で「買う権利 or 売る権利」を売買する取引のことです。
例えば、「1ヶ月後に金10gを2,000円で購入する権利」を買えば、1ヶ月後の金の価格が10gで4000円になったとしても、予め約束した2,000円で購入することができます。
VIX指数では、30日後に期限が切れるS&P500を対象としたオプションを基に算出されます。
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気配値(けはいね)
気配値とは、買い方が買いたいと希望する値段と売り方が売りたいと希望する値段のことを指します。
例えば、以下のような気配値(板)があるとすると、218円で1,200株の買い気配、217円で800株の売り気配となります。
尚、VIX指数では、実際の約定価格ではなく、オプションの気配値の中値を基に算出されます。
買株数 | 気配値 | 売株数 |
500 | 220 | |
300 | 219 | |
1,200 | 218 | |
217 | 800 | |
216 | 300 | |
215 | 100 | |
214 | ||
213 |
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権利行使価格
権利行使価格とは、あらかじめ決められた満期時の時に売買できる価格のことを指します。
コールオプション(一定期日までにある金融商品を買う権利)の場合は購入価格、プットオプション(一定期日までにある金融商品を売る権利)の場合は、売却価格のことを指します。
・算出式を分解して解説!!
シカゴオプション取引所(CBCE)が公表しているVIX指数の算出式は下記の通りです。
VIX指数の算出式は、シカゴオプション取引所が解説だけに20ページものPDFを使用しているだけあり、ものすごく難解です。
そこで、Investopediaさんの記事を参考にしながら、算出式に実際の数字を入れて、より単純化していきます。
上の例では、16日後と44日後が限月(引渡し期間)であるオプションのコールとプットを例に算出しています。
それでは、項を1つ1つみていきましょう。まず、上の算出式の分母にある「525,600」は、1年間(365日)を分換算した値です(365×24×60)。
「21,600」は、VIX指数が08:30に計算されるとして、16日後限月のオプションが16日後の08:30に権利を行使する必要があるとすると、16日後が限月であるオプションの残された時間は、21,600分(15日×24×60)であることを示しています。
①従って、21,600/525,600は、1年間の内、16日後が限月のオプションに残された期間を示しています。
②0.06472は、そのオプションのボラティリティを数値化したものです。あまりにも難解すぎるので、計算方法は省略していますが、コールオプションとプットオプションの気配値から算出されており、その気配値が高くなればなるほど、この数値も大きくなります。
第3番目の項の61,920という値は、44日後が限月であるオプションの権利行使までの残された期間(43日×24時間×60分)を表しています。43,200は、30日を分に換算(30日×24時間×60分に)したものです。
*30日という数字は、VIX指数が30日後に満期を迎えるオプションを計算対象としているところからきています。
分母では、44日後が限月のオプションの残期間(61,920)から16日後が限月のオプションの残期間(21,600)を引き算しています。
すなわち、③第3項では、次の期の限月(ここでは44日)から30日分を差し引いた結果を、次の期のオプションの残期間44日(61,920分)から直近の期の残期間16日(21,600分)を差し引いた値で割って算出されます。
④4番目の項と⑤5番目の項の算出方法はそれぞれ、上記①②と同じ要領です。4番目の項では、1年間の内、44日後が限月のオプションの残期間を示しています。
⑥6番目の項も上記③と同じ要領で算出されます。
最後に、⑦7番目の項では、365日を分換算した値(525,600分)を30日を分換算した値(43,200)で割って算出されます。
以上が、算出式についての説明です。上の算出式では、例として16日後と44日後が満期のオプションを用いていますが、実際、VIX指数は満期が23日以上37日未満のプットとコールオプションの気配値をひたすら上記のような要領で計算して算出されます。
・VIX指数の問題点
これほどまでに高度な算出式を有し、不正が難しいとされていたVIX指数ですが、2018年2月、不正操作が実施されたと米金融当局に告発があり、衝撃をあたえました。
S&P500のオプション取引は取引高が多く、到底操作できるようなものではないと思われますが、VIX指数算出方法の構造的なあなをついて不正が行われたとされています。
実際、2017年に、テキサス大学オースティン校のグリフィンとシャムズが発表した論文『Manipulation in the VIX?』によると、VIX指数の主要な計算対象となる30日後に期限が切れるS&P500の取引枚数だけ際立って取引量が多いということを示しました。
また、この現象は他のオプション取引では見られず、S&P500のオプション取引のみで見られる現象であるとも主張しています。
実際に不正が行われたかどうかは定かではありませんが、VIX指数の算出に構造的な問題があると言えそうです。
よくとり上げられるもう1つの問題点として、VIX指数が実際の約定値ではなく、コールとプットオプションの気配値の中値を使って算出される点です。
実際の出来高をベースにして算出されていないため、現在の株価水準から離れた取引量の少ないような価格で、莫大なコールとプットの売買を行えば、オプション価格を操作する余地が生まれます。
このように、S&P500のオプション取引は、全体で見ると板が厚く取引量が多いため、不正が困難であるかのように見受けられますが、計算方法の特性的に不正の余地が生まれてしまうといった問題点があります。
・VIX指数をリアルタイムで確認する方法
VIX指数は、S&P500のオプション取引を対象とした指数ですが、日本の日経VI指数や欧州のVSTOXX指数(ぶいすとっくすしすう)といったように、日本と欧州にも似たような指標が存在します。
計算方法はそれぞれ異なりますが、インプライドボラティリティから投資家心理を反映させた指標である点では同じです。
それぞれの最新結果は、株式会社ストックブレーン社が運営している「世界の株価と日経平均先物」というサイトで確認することができます。
・過去の歴史的な高値&低値
米国テネシー州のヴァンダービルト大学・オーウェン経営大学院 Robert E. Whaley 教授によって、1993年に同指標が公表されて以来の歴史的な高値と安値は下記の通りです。
参考までに、VIX指数は基本的に常時10〜20程度のレンジで推移しています。
年月 | 出来事 | 指数値 |
1997年 | アジア通貨危機 | 48.64 |
2002年 | エンロン不正会計 | 48.46 |
2003年 | イラク戦争 | 34.40 |
2008年 | 世界金融危機 | 89.53 |
2011年 | ギリシャデフォルト危機 | 46.88 |
2017年 | 過去最低値を記録 | 8.56 |
2020年 | 新型コロナ感染拡大 | 85.47 |
2020年に入ってからは、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、一時85.47と歴史的に見ても異常な数値を記録しました。
その後、順調に低下し続け、2020年8月には20を少し上回る水準にまで戻りましたが、米国大統領選挙を控えた11月初めには、30をやや上回る水準にまで上昇しました。
現在(2020年11月下旬)は、23.18まで戻り、常時よりやや高いくらいの水準で推移しています。
