新聞やニュースでよく耳にする「長期金利」というワードですが、あまりにも奥が深いため、調べれば調べるほど理解から程遠くなるかと思います。
過去に長期金利について軽く調べたことがある人だと、何となく「1年以上お金を借りる時にかかる金利」くらいの認識ではないでしょうか?
それもそのはずです。実は、「長期金利」という言葉は、その時その時によって、指してる意味合いが異なってくるのです。
そこで、この記事では、長期金利についてはもちろん、長期金利が金融市場に与える影響、長期金利と株価の関係、長期金利の上昇理由など幅広く徹底的に解説していきます。
目次
1.そもそも長期金利とは何なのか??
長期金利の一般的な意味合いは、金融期間が1年以上資金を貸し出した際に適用される金利です。1年以上の金利が「長期金利」となりますので、1年未満の金利は「短期金利」となります。

あくまでも、基本的な意味合いでは、「長期金利」=「返済期間が1年以上の金利」となりますが、新聞やテレビなどで報じられている長期金利は、10年物国債の利回りを指す場合がほとんどです。
その理由としては、10年もの国債の利回りが、長期金利の代表的な指標となっているからです。
そもそも、国債の利回りというのは、国債への需要が高くなればなるほど低くなります。
例えば、額面金額100円で利率が2%、残存期間が10年の債権を95円で買えた場合の利回りは、「{2+(100-95)÷10}÷95×100」となり、約2.6%となります。
利回り={表面利率+(売却金額-購入価格)÷所有期間}÷購入価格×100
債券需要の高まりによって、多くの人が債券を買い求めるようになり、↑と同じ条件の債権の価格が95円から97円に高騰したとします。
その場合の債券利回りは、「{2+(100-97)÷10}÷97×100」となり、約2.4%となります。
このように、債券への需要の高まりによって、債券価格が高騰すると、最終的な利回りは減少するのです。
国債における「利率」とは、額面に対して毎年受け取ることができる「利子(金利)」の割合のことを指します。例えば、額面が100円で毎年2円の利子(金利)が出る債券の利率は2%ということになります。
「利率」の説明からもわかる通り、「金利」は「利子」と同じ意味合いで使われます。
最後に、「利回り」とは、投資した金額(元本)に対する1年間の収益の割合のことを指します。利回りの計算には、毎年貰える金利に加えて、国債の償還額(最後に返ってくる額面の金額)も含まれます。
一般的に、債券は安全資産とされているため、景気が悪化している時に債券需要が高まり、反対に、景気がよく株式などのリスク資産の方が好まれるようになると、債券需要は低くなります。
従って、景気が悪化している時は債権利回りが低くなりやすく、景気が良好な時は債券利回りが高くなりやすいと言った特徴があります。
特に、長期金利(10年もの国債の金利)は、長期的な経済状況が反映されやすく、景気が悪化すると長期金利は低下し、上向くと長期金利も上昇する傾向 にあります。
こうした特徴から、長期金利は「経済の基礎体温」とも言われています。
KEY WORDS
・1年以上お金を貸した際に適用される金利
・新聞やニュースで目にする長期金利は、10年もの国債の利回りという意味合いで使われる場合が多い
・長期金利は「経済の基礎体温計」
・景気の先行きに楽観的⇒長期金利が上昇しやすい
景気の先行きに悲観的⇒長期金利が減少しやすい
・日銀は、2016年9月に長短金利を操作する「イールドカーブコントロール」を導入
・「固定金利型」の住宅ローンは、長期金利を基準に利率を決定している
2.長期金利の上昇は何を意味しているのか?
これで、長期金利は何なのか?についてはご理解いただけたと思いますが、そもそも長期金利が上昇するということは、何を意味しているのでしょうか??
長期金利(10年もの国債の利回り)は、債権価格が下落すると上昇し、上昇すると長期金利は減少します。
長期金利は長期的な経済状況を反映するとされているため、生命保険会社や銀行は、景気の見通しが明るい場合は、リスク資産である株式などの金融資産を積極的に購入し、反対に、景気の先行きが悪化すると予測している場合は、リスクオフとして、国債の購入額を増やします。
すなわち、長期金利が上昇しているということは、景気の先行きが明るいと考えている個人投資家や金融機関が多く、 下落しているということは、先行きに不安を感じている個人や機関が多いことを示しています。
また、期待インフレ率の記事でも紹介した通り、名目長期金利は、実質長期金利の動向にも影響を与えます。

フィッシャー方程式によると、名目金利は、「名目金利=実質金利+期待インフレ率 」で算出されます。
この式を変形すると、「実質長期金利=名目長期金利-期待インフレ率」となりますね。
ということは、名目長期金利の伸び幅が期待インフレ率よりも高い場合は実質長期金利も上昇し、名目長期金利の伸び幅が期待インフレ率よりも低い場合は、実質長期金利は減少します。

3.長期金利を活用した金融政策〜イールドカーブコントロールについて詳しく解説
イールドカーブ・コントロール(YCC)とは、一言で表すと、「短期から長期までの金利を金融政策によってコントロールすること」です。
そもそも、政策金利などの短期金利と違って、長期金利は中央銀行によって操作することはできないとされていました。
実際、主要国の中央銀行で長期金利の操作を目的とした金融政策は、日本が初めてとされています。
そのため、2016年9月に、日銀によって導入されたイールドカーブコントロール(YCC)は、良く言えば画期的、悪く言えば無謀な政策であると言えます。


長期金利を操作するイールドカーブ・コントロール(YCC)が他に類を見ない金融政策であることはお分かりいただけたと思いますが、なぜ、日銀は長期金利をコントロールしたいのでしょうか?
その目的は、インフレ率を2%(物価上昇率を前年比で+2.0%)付近で安定的に推移させるためです。
では、イールドカーブをコントロールすることによってどうやって物価目標を達成することができるのでしょうか?
上で添付したイールドカーブの図の通り、国債の償還日までの期間が長ければ長いほど、リスクが増加するため、それに合わせて利回りも上昇します。
ですが、イールドカーブ・コントロールを導入した2016年9月当初は、短期金利も長期金利を同じくらいの水準であるフラットなイールドカーブとなっていました。
その上、長期金利はマイナスとなっていたため、10年もの国債など、期間の長い国債を多く保有する銀行や生命保険といった金融機関の収益を圧迫していました。

そこで導入されたのがイールドカーブ・コントロールです。
日銀が国債の買い入れ量を調整することによって、マイナスだった長期金利を+-0%付近で推移させ、金融機関の収益の改善を図りました。
もし、イールドカーブ・コントロールによって、金融機関の収益が改善されれば、金融機関も積極的にお金を貸すようになり、それによって、企業の設備投資の活性化及び市場に出回る資金量の増加につながり、物価の上昇を期待できるというわけです。
4.長期金利と債券価格の関係
国債の金利(表面利率)は、国債を発行する際に財務省が金融市場の動向を見ながら決定します。
例えば、①金利2%、元本100円、10年満期の国債があったとします。こうした中で、財務省が新たに②金利3%、元本100円、10年満期の国債を発行するとどうなるでしょうか?
②の国債の方が最終的な利回りは高くなるので、①より②を購入する人が増加します。
そうなると、①の国債に対する需要は減少するため、需給の関係で①の国債の価格ば下落します。
このように、金利と国債価格の関係は、国債の金利が上昇すれば債券価格も上昇し、国債の金利が下落すれば債券価格も下落するといった関係にあります。
金利が上昇 ⇒ 国債価格上昇
金利が下落 ⇒国債価格下落
5.長期金利は株価にどのような影響を与えるのか?
基本的に、長期金利と株価は逆相関関係(片方が上昇するともう片方が下落)にあります。逆相関関係なので、長期金利が上昇している局面では、株式が売られやすくなり、反対に長期金利が減少している局面では、株式が買われやすくなるということです。
ではなぜ、長期金利と株価は逆相関関係になるのでしょうか?
それは、国債が安全資産とされているのに対し、株式がリスク資産とされているところにあります。
長期金利が上昇しているということは、国債を保有して得られる金利が増加するということなので、わざわざリスク資産である株式を保有するのではなく、国債を購入しようとする人が増加します。
長期金利の上昇によって国債への需要が高まる一方、株式への需要が低減するため、株安につながりやすいというわけです。
6.住宅を購入予定の人は必見!?住宅ローン金利と長期金利
マイホームを購入する大半の人は住宅ローンを借りて購入するはずです。
しかも、借入年数は20年以上と長期でローンを組む人がほとんどではないでしょうか?
住宅ローンの借入額は、3,000万円以上になることも多々あり、借入年数も長いため、借入金利が僅か数%変動するだけで、返済額は大きく変わってきます。
それほど重要な住宅ローンの金利ですが、住宅ローンの中でも「固定金利型」の住宅ローン金利は、長期金利(10年もの国債の利回り)を基準に決定されます。


このように、長期金利が低水準で推移している時は、住宅ローンの固定型金利を低く設定する金融機関がほとんどですので、住宅ローンを借り入れる際は、長期金利や変動金利の動向をチェックすることが重要です。